【スマート農業の原点】ドローン黎明期の熱気
空から農業を変えた挑戦の軌跡
今やスマート農業という言葉は広く定着し、ドローンや高精度な衛星データ、ISOBUS(イソバス)
対応の先進農機を用いることで、誰でも簡単にピンポイントな可変施肥や効率的な栽培管理が
できる時代になりました。
しかし、技術がまだ手探りだった「黎明期」――。その最前線で、試行錯誤を重ねながら未来の農
業を切り拓いていた熱い時代がありました。
今回は、パプアニューギニアでのJICA活動から端を発し、日本全国の農地を駆け巡ったドローン
センシング黎明期の挑戦の物語をお届けします。
- パプアニューギニアの空で出会った「衝撃」
すべての始まりは2015年。当時、発売されたばかりで折りたたんで旅行鞄に携行できる「DJI
Mavic」を手に、私はJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動地であるパプアニューギニア・ミ
ルンベイ州アロタウ市にいました。赴任先での任務のかたわら、空から広大な自然や景色を撮影
して楽しんでいた私の前に、ある一つの革新的なアプリが現れます。
それが、スイスのPIX4D社が開発した自動飛行・撮影アプリ「PIX4Dcapture」でした。
画面上で圃場を指定するだけでドローンが自動航行し、詳細な連続写真を撮影してくれる——。
その技術に触れた瞬間、私の中で雷に打たれたような大きな確信が生まれました。
「このドローンセンシングを活用すれば、作物の生育状況を可視化し、効果的な施肥と肥料のコ
スト削減、そして圧倒的な作業効率化ができる!」
この直感が、その後の私の農業アテック(AgTech)における長い挑戦の幕開けとなりました。 - 全国を駆け巡ったデータ収集の日々と「大麦追肥実証」
帰国後、私の探究心はさらに加速しました。当時、近赤外線カメラとNDVI(正規化植生指標:植
物の光合成能力や生育状況を数値化・可視化するための技術的指標)を標準装備したフランス
製の画期的な農業用ドローン「Parrot社 Bluegrass」が登場。さらにPix4D社の解析ソフト「
Pix4Dfields」も導入し、私は夢中になって全国の農地へと飛び出しました。
● 北海道: 広大な一般畑作エリアでの空撮と生育データの検証
● 関東エリア: 大麦畑を中心とした詳細なモニタリング
● 関西エリア: みかん園の傾斜地・果樹栽培におけるデータ収集
● 九州エリア: 水田地帯における生育ムラの可視化
中でも特に鮮烈な記憶として残っているのが、群馬県館林市で行ったビール大麦の追肥効果試
験です。
ノルウェーに本社を置く世界最大の窒素肥料会社・Yara(ヤラ)社の高品質肥料「ノルチッソ」を使
用し、大麦の起生期における追肥の効果を3回に分けて綿密に試験を行いました(※当時の実
証の様子はマイナビ農業の記事等でも取り上げられました)。
ドローンで捉えたマルチスペクトル画像を解析することで、植生指数の変化が鮮やかなカラー
マップとして画面に浮かび上がりました。「どこにどれだけ肥料が効いているのか」「追肥のタイミ
ングで生育はどう変わるのか」が視覚的に手に取るようにわかり、知りたいという知的好奇心が
完全に満たされる最高の瞬間でした。
3. 当時の「変態技術者達」の情熱と、現代のスマート農業
2026年現在のスマート農業を見渡すと、当時に比べれば信じられないほど環境が洗練されてい
ます。
晴天日であれば、有料の格安サービス「Xarvio(ザルビオ)」などのプラットフォームを使えば、誰
でも手軽に高度な生育管理や可変施肥マップの作成ができるようになりました。さらに、ISOBUS
対応のトラクターや農機がデータを直接読み取り、スポットスプレーやセクションコントロールを自
動で実行してくれます。
しかし、ボタン一つで全てが自動化されている今の便利さの裏には、「何もない荒野」を手探りで
開拓してきた黎明期ならではの泥臭い苦労と、技術者たちの純粋な熱狂がありました。
当時のPIX4D社やYara社の先進的なプロダクトに魅せられ、共に知恵を絞り、協力してくださっ
た全国の生産者の皆様と泥まみれになりながら関わった日々は、今振り返ってもかけがえのな
い最高の思い出です。
4. 映像で振り返る、黎明期のリアルな記録
当時の現場の空気感や、手探りながらも最先端に挑んでいた熱気が伝わる当時の記録動画を
公開しています。よろしければ、古い時代の「スマート?かな農業」の軌跡をぜひご覧ください。
● YouTube動画1: DroneCast1【ビール大麦追肥実証(前編)】
● YouTube動画2: DroneCast2【ビール大麦追肥実証】(中編)
● YouTube動画3:DroneCast3【ビール大麦追肥実証】(後編)
技術は進化し、手法はより簡単でスマートになりましたが、現場の作物と向き合い、より良い農業
を追求する情熱の根底は、いつの時代も変わることはありません。黎明期の空を飛んだ小さなド
ローンが描いた軌跡は、確実に今の持続可能な農業の未来へと繋がっています。


